topimage

量子ダイナミクス

多粒子系のダイナミクスを絶対量(基礎物理定数)で記述する最も基本的な枠組みは、 時間依存シュレーディンガー方程式である。 これを、密度行列に対する運動方程式の形に定式化することによって、強い外場と物質の相互作用が引き起こすさまざまな物理現象を統一的視点から理解するとともに、 メゾスケールでの輸送方程式や巨視的な流体力学方程式とのつながりを探りたい。

急激に外場を印加した系で非断熱遷移によって誘起される量子振動の例を図1に示す。 論文[1]では、不純物に対する電子ガスの非線形応答(Friedel振動、Anderson の直交定理)、 原子の多光子イオン化や軌道緩和ダイナミクスなどを数値解析している。

密度行列の一種である Wigner 分布は、プラズマの量子運動論の構築に有用である。 たとえば液体金属やプラズマの交流電気伝導度は電子-イオン間の量子非弾性散乱によって決定され、 一般化Drude公式で記述される[2]。

X線自由電子レーザー "SACLA" のような高強度でコヒーレントなX線源の誕生により、 固体中の内殻電子をフェムト秒時間内に励起し、 電子構造や光学定数を大きく変化させることが可能となった[3] (電通大・理研との共同研究)。 照射X線強度を上げると銅薄膜の吸収スペクトルが高エネルギー側にシフトする現象を、 内殻準位の低下がもたらす3次の非線形効果として説明した(時間依存Hartree-Fock計算[4])。 X線照射により生成した高エネルギー電子の衝突緩和ダイナミクス[5]は、放射線物理における阻止能や損傷の問題ともかかわりがある。

固体中の原子は格子点のまわりを微小振動しているが、その実態は、長波長での集団的振動と短波長での 個別粒子的運動が複雑に入り混じったものである。 Debye模型を援用し、固体中の密度ゆらぎスペクトル(動的構造因子)を広範な波長・振動数領域に わたって記述する「多フォノン散乱理論」を構築した[6]。

  • [1] H. Kitamura, Int. J. Quant. Chem. 114, 1518 (2014); 117, 25442 (2017)
  • [2] H. Kitamura, Eur. J. Phys. 36, 065010 (2015) ; Phys. Scr. 99, 125275 (2024)
  • [3] H. Yoneda, Y. Inubushi, M. Yabashi, T. Katayama, T. Ishikawa, H. Ohashi, H. Yumoto, K. Yamauchi, H. Mimura, and H. Kitamura, Nature Commun. 5: 5080 (2014)
  • [4] H. Kitamura, Phys. Rev. A 102, 023120 (2020)
  • [5] H. Kitamura, J. Elec. Spec. Rel. Phenom. 232, 45 (2019)
  • [6] H. Kitamura and T. Furukawa, Phys. Rev. E 108, 034111 (2023)



図1: Quantum oscillations of an electron induced by strong nonadiabatic perturbations.



図2: Thermalization dynamics of primary and secondary electrons in metallic copper.