希薄な溶液中にある高分子鎖は、溶媒との相互作用により全体が広がったコイル状態や、凝縮したグロビュール状態などで存在することが知られている。 コイル・グロビュール転移とは、コイル状態で存在していた高分子鎖が、溶媒の温度が低温になることなどにより、グロビュール状態を取るようになることである。 高分子鎖が凝縮中にとる配置は、実験による観測が難しく、シミュレーションによる研究が注目されている。 溶媒がコイル・グロビュール転移に与える影響のうち、とくに流体としての働き (流れ場) に注目しシミュレーションを行い、その結果を流体を取り入れていないシミュレーションの結果と比較して,その働きを明らかにしている。 これまでの研究から、流体の流れによって高分子鎖の凝縮がスムーズになること、また高分子鎖の初期の形によって流体は異なる働きをすることがわかってきた。
DNAなどの電解質高分子の水溶液にアルコールなどを添加すると高分子が沈殿することが知られている。
通常、溶媒の混合比は均一であると考えられているが、ぬれ・静電相互作用により、それは自明ではない。
メソスコピックな描像に基づき、電解質高分子の混合溶媒中での振る舞いを研究している。
流体粒子ダイナミクス法の溶媒をイオンを含む二成分混合液に拡張し、バネでつないだ高分子鎖に電荷の自由度を与える。
数値シミュレーションの結果、二成分液体の相挙動に応じて、高分子鎖のコンフォーメーションが大きく変化することが分かった。
高温では溶媒は均一に混ざっており、電解質高分子は自身の静電相互作用により直線状に伸びている。
温度を下げると、溶媒は相分離し、親和性が高い相で高分子鎖は覆われる。
相分離界面の界面張力により、高分子鎖を含むドメインはコンパクトになり、その中にある高分子鎖もコンパクトな形状を取るようになる。
この相が油相であれば、高分子の帯電量は小さくなり、静電相互作用は抑制され、よりコンパクトな形状をとるようになる。
液晶中の高分子鎖の振る舞いを分子シミュレーションを用いて調べている。 液晶はGay-Berneポテンシャルで記述される異方性粒子を用い、高分子鎖はKremer-Grestモデルを用いて記述した。 溶媒となるGay-Berne粒子は温度を変えることにより、等方相からネマティック相へと転移する。 液晶の配向場と高分子の配向場の結合が強い場合、この等方・ネマティック相転移点近傍で、高分子のコンフォーメーションが大きく変化することが分かった。 等方相では、高分子鎖も等方的でコイルかグロビュールのコンフォーメーションを示す。 一方、ネマティック相では、高分子鎖は配向場の主軸方向に引き伸ばされる傾向があることが示された。 高分子鎖が剛直な場合にはその傾向がより顕著で、等方相であっても高分子鎖の近傍では、液晶秩序度が大きくなることも分かった。