流体系相分離の後期過程において、重力の効果によって、密度の高い相が下に沈んでいくということは、よく知られている。しかしながら、どのようなプロセスで沈んでいくかについての研究はあまりなされておらず、いくつかの問題が残されている。我々は、流体モデルに密度差の効果を取り入れ数値シミュレーションを行った。その結果、相分離初期は、通常と同じく、等方的に相分離が進行するが、ある時刻から、より流れやすくなるよう、重力と同じ方向にドメインが変形することが分かった。また、その過程は、対称組成と非対称組成の場合とでは、定性的に異なることが分かった。これまで、ドメインが重力の影響を受けるのは、ドメインの特徴的長さ(一般的に、散乱ピークの逆数で定義される)が、キャピラリー長より大きくなってからだと解釈されていたが、我々の行った数値シミュレーションの結果、その解釈は、ドロップレット構造の場合においては成り立つが、双連結構造の場合には成立せず、およそ界面が形成されてすぐに、影響を受けることが分かった。このことは、重力に対して、意味のある長さは、散乱ピークの逆数ではなく、平均的な平均曲率の逆数(双連結構造では、発散する)であると解釈することによって理解できる。図1は、非対称組成における重力場下の相分離の時間発展の様子。
流体系相分離において、壁などの固体相が存在する場合において、この固体相が、相分離ダイナミクスに、どのように影響するかについての研究を行っている。 図2は、3次元系で行った数値シミュレーションの時間発展の様子であり、図中で下部に固体壁が存在する。その結果、ぬれやすい相は壁面に吸着し、ぬれ層を形成する。 また、ぬれ層の厚さは時間に比例して成長することが分かった。 また、そのプロセスにおいて、ぬれ層とバルク部分をつなぐチューブの部分を通じた流体力学的な流れ場が、重要な役割を示すこと、そのチューブ部分の壁面に平行な向きの成長は、バルク部分より早いこと、ぬれ層の内部の濃度場は、熱力学的状態に達していないことなどが分かった。
レイリー・ベナール対流など、温度勾配下における流体は、極めて興味深い挙動を示すことが知られている。我々は、温度勾配下における相分離ダイナミクス、特に、平衡状態における濃度分布や界面パターン、または、Soret効果による、不連続な濃度分布変化といった問題に注目して、数値シミュレーションや理論的解析を行っている。 図3は、水平方向に温度勾配を与え、垂直方向に重力を与えた場合の相分離ダイナミクス。最終的な温度分布は、相分離温度がちょうど中央付近になるように設定している。流れ場がない場合(固体系)には、Soret効果を無視すると、相分離温度より高温(左側)で一相状態であり、低温側で相分離状態にある。一方、流れ場の影響がある場合には、対流によって常に物質が輸送され、流れにのった物質は相分離と相溶化を繰り返す。流体系では相分離の方が相溶化より早く進行するため、、低温側で相分離した物質は高温側で混ざりきることはできず、結果として、相分離温度より高い領域でも相分離するようになる。つまり、系に相分離温度より高い温領域があっても、相分離は対流によって非局在化する。図4は、流体系での相分離の度合いの粘性率、セルサイズ依存性で、上記の相分離の非局在化は、粘性率が低い程、またセルが大きい程、顕著に現れる。
温度勾配のある液体中に、他の相の液滴が存在するとMarangoni効果により、液滴は高温側に移動していくことが知られている。この系に壁面を考慮すると、液滴は高温側の壁面に張り付き、静止するが、定常状態にあってもMarangoni効果により、その周りに常に流れが誘起され続ける。我々は、この流れ場によって、液滴間に実効的な斥力が働くことを発見した。このメカニズムにより、新しい相分離構造の制御法が確立できるものと考えている。(図5)
混合流体における相分離は、シェア流動によって容易に影響を受けることが知られているが、しかしながら、この非平衡条件下においてどのようなメカニズムでそのパターンが選択されるか、よく分かっていない。 我々は、組成比・せん断速度・レイノルズ数などの様々なパラメータを変化させ、そのメカニズムに関する研究を行っている。