大抵の物質は、数千度以上に加熱すると、ばらばらなイオンとフェルミ縮退した電子からなる液体金属状態をとる。白色矮星や木星のような高密度天体の内部も、一種の液体金属と考えられる。室温の固体と高温電離気体の中間に位置する
"暖かい凝集系" の物性を理解するための基礎研究を行っている。
液体金属を膨張させ、超臨界状態を経て気相へと遷移する過程で、 電子は各原子に局在する。すなわち、金属-非金属転移が起こる。 こうした相転移現象を物質に即して定量的に記述・予測するには、単純なモデルに頼らず、ミクロな電子構造から
マクロな相挙動までを包括した、整合性のとれた理論の構築が必要となる。
そこで、量子化学の視点が重要となる。原子が一個ずつ集まり、 数十原子からなるクラスターを形成する過程で、
原子間相互作用は、 ファンデルワールス的な二体力から金属的な多体相互作用へと変化していく。
その様子を相対論的な分子中二原子分子法(DIM法) により解析し[1]、 液体の統計力学理論と
組み合わせることによって、
流体水銀の気体-液体転移の共存線や臨界点を精度良く再現することに成功している(下図)[2]。
また、格子上に原子と空孔を不規則に配置して液体金属中の原子配列を模擬し、
その凝集エネルギーを規則固体の電子状態計算から逆算するクラスター変分理論も試みている[3]。
格子気体に有限温度Hartree-Fock理論を適用すると、量子化学の自己無撞着計算と
同じ枠組みで気体-液体相分離に伴う不均一構造の出現が解析できる[4]。
図1: Gas-liquid coexistence curve on the mass density-temperature plane.